事業項目 Work Packages
JHPC-quantum
05.
量子・HPC連携プラットフォームの構築および運用技術の開発
量子コンピュータとスーパーコンピュータが連携できるプラットフォームを構築し、整備・運用します
概要overview
近年の量子コンピュータの発展は著しく、実用的な領域に入りつつあります。現在は量子コンピュータとスーパーコンピュータをそれぞれ独立に利用する手法が主流ですが、この事業では量子コンピュータとスーパーコンピュータを高度に連携利用することで新しい計算パラダイムの開拓を狙います。
我々は、複数の量子コンピュータ、さらに理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」を始めとする複数のHPCシステムを相互接続し、量子・スパコン連携プラットフォームのインフラを構築・運用します。
事業内容detail
近頃は量子コンピュータのニュースを耳にすることも多くなりました。
実際に量子ビットは年々増加傾向にあり、特定の分野では実用化も始まってきています。
皆さんは量子コンピュータと聞くと何を思い浮かべるでしょうか。何でもできる夢のコンピュータというふわっとしたイメージを持たれる方もいるかもしれません。しかし実際はそうではありません。量子コンピュータは得意とする領域に対しては通常のコンピュータより速く計算できることが期待されますが、現在のコンピュータを全て量子コンピュータで置き換えるようなものではありません。
そこで、両者をうまく使い分けていくことが大事になってきます。これまでは量子コンピュータは量子コンピュータとして、通常のコンピュータは通常のコンピュータとして別々にアプリケーションの開発が行われることが主流でした。しかしこの2種類の計算機を同時に使うとどのようなことができるのでしょうか。この分野は未だ研究例が少なく、そもそもそういった研究ができる環境がないのが現状です。
そこで本プロジェクトでは、量子コンピュータとスーパーコンピュータを接続し、両方同時に利用できる環境をつくります。この環境で、ユーザーが量子コン・スパコンを密に連携させたアプリケーションを動かすことができるようにします。これには多くのチャレンジが伴います。量子コンピュータはチップやそれに対する操作、冷却システムなど、今までのコンピュータとは大きく仕組みが異なります。そのため導入・設置・運用に求められる技術や専門知識も全く新しいものとなります。他にもネットワークの接続方法やユーザーの認証・管理、ジョブの実行方法など、システム上で考えるべきことも多くなります。
本プロジェクトで開発する量子・スパコン連携プラットフォームでは、以下のシステムを相互接続します。
- スーパーコンピュータ「富岳」(神戸)
- 量子シミュレーション向けスーパーコンピュータ(神戸)(新規導入)
- 超伝導型量子コンピュータ(神戸)(新規導入)
- イオントラップ型量子コンピュータ(和光)(新規導入)
- 東京大学のスーパーコンピュータ(東京)
- 大阪大学のスーパーコンピュータ(大阪)
このうち、このプロジェクトにて新規に導入される3台のシステムについては建物のリノベーション工事などの物理的な環境の整備から行い、設置・稼動テストなどを経て運用に入ります。
全てのシステムはネットワークにより相互接続されますが、異なる地区の接続にはNIIが提供するSINETを経由し、同地区(神戸)に置かれたシステムについてはInfiniBand等の高速ネットワーク接続を用いて密な連携を可能とします。
このプラットフォームには様々なシステムが含まれますが、統一的なユーザー認証システムを用意することにより、どのシステムからも各量子コンピュータ・スーパーコンピュータが使えるようにします。また、それぞれのシステムのジョブスケジューラを連携させることで任意の場所から計算ジョブを投げられるようにします。計算機リソースの効率的利用という観点からなるべく無駄が少なくなるようにしつつも、ユーザーの利便性は損なわないような設計を考えていきます。
ユーザーは、OpenOnDemand環境によりWebブラウザ上で簡単に量子コンピュータとスーパーコンピュータ両方の計算リソースを使うことができ、さらにその中ではJupyterNotebook上で各種Pythonフレームワークを使用することもできます。Qiskit, Qibo, TKETといった量子ソフトウェア環境もSingularityコンテナベースで整備し、ユーザーが量子アプリケーションの開発をすぐに始めることができるようにします。
量子コンピュータは実機だけでなく、シミュレーション環境も重要です。このプロジェクトでは、量子シミュレーション用に新たにGPUを備えたスーパーコンピュータシステムを導入します。このスパコン上でも、各種量子シミュレーションソフトウェアが動くように環境整備をしていきます。
実用的になってきたとはいえ、まだまだ発展途上な量子コンピュータです。ハードウェア環境・ソフトウェア環境ともに課題が多く存在します。また、超電動型量子コンピュータ、イオントラップ型量子コンピュータ、さらに異なるアーキテクチャのスパコンといった様々なシステムを大規模に相互接続することにより発生してくる課題もあるでしょう。この事業項目では、量子・スパコン連携プラットフォームインフラの構築と安定運用を第一とし、その上で計算リソースの利用効率とユーザーの利便性をなるべく高めることを目指していきます。複雑かつ広範囲に及ぶプラットフォーム構築を進めることでさらに新しいノウハウが蓄積され、この知見を将来のシステム構築に生かすことにも繋がっていきます。
量子コンピュータとスーパーコンピュータの連携で何ができるのかは未知数です。そのような新しい分野に対し、多くの量子研究者・HPC研究者・アプリケーション開発者などが興味を持っています。それらのユーザーのために、我々は、いつでも、どこからでも、簡単にアクセスできる量子・HPC連携プラットフォームを整備していきます。
プロジェクトメンバーproject members
理化学研究所計算科学研究センター
プロジェクトリーダー
- 三浦 信一
- 量子HPC連携プラットフォーム部門 量子HPCプラットフォーム運用技術ユニット
- 内田 崇
- 量子HPC連携プラットフォーム部門 量子HPCプラットフォーム運用技術ユニット
- 幸 朋矢
- 量子HPC連携プラットフォーム部門 量子HPCプラットフォーム運用技術ユニット