事業項目 Work Packages
JHPC-quantum
09.
クラウド向け展開のための量子・HPC連携PaaSシステムの研究開発
クラウド向け展開のための量子・HPC連携PaaSシステムの研究開発
概要overview
本事業では、量子計算と高性能計算(HPC)を連携させたプラットフォーム・アズ・ア・サービス(PaaS)システムの研究開発を行います。量子コンピュータとスーパーコンピュータを効率的に組み合わせるためのソフトウェアを統合し、ユーザーがWebブラウザから簡単に操作できる量子・HPC連携PaaSポータルを開発します。これにより、革新的な研究開発を促進することが期待される、最新の計算技術を利用できる環境を提供し、その社会実装や実用化の有効性を検証します。
事業内容detail
量子コンピュータは、創薬・素材開発等における量子化学シミュレーション、金融・交通分野等における組み合わせ最適化、暗号解読等における素因数分解など、さまざまな分野で活用が期待される技術です。しかし、日本では量子コンピュータは未来の技術と見なされていて、まだその技術が十分に理解されていません。さらに、量子計算に関する専門知識を持たないユーザーが試しに使える計算環境はほとんどありません。その結果、研究者や開発者の数も増えず、日本の国際競争力を高める妨げになっています。
量子コンピュータは、通常のコンピュータでは解決が難しい問題を解決する能力を持っています。例えば、創薬や素材開発においては、分子構造の解析や新素材の発見に役立つ量子化学シミュレーションが可能です。また、金融や交通分野では、複雑なポートフォリオの最適化や交通網の効率化に貢献する組み合わせ最適化の計算が効果的です。さらに、暗号解読においては、素因数分解の高速化により、現行の暗号システムを破る可能性があるため、セキュリティ分野でも注目されています。しかし、これらの潜在的なメリットを活用するためには、量子コンピュータへのアクセスが必要です。
今後、量子コンピュータの技術開発が進むにつれ、その利用環境やサービスが拡充し企業や研究機関などで導入が大幅に拡大していくと予測されるものの、現状では量子コンピュータ単体での活用は難しい状況で、HPCとの連携により計算可能領域を拡張し、活用の可能性を広げることが望まれています。しかし、日本では量子コンピュータとHPCを組み合わせて使うためのクラウドサービスがほとんどなく、その結果、量子コンピュータの活用が進まない状況となっています。クラウドサービスを通じて量子コンピュータとHPCが連携した計算環境にアクセスできれば、専門知識がなくても利用できる環境が整い、研究者や開発者の数も増えるでしょう。これにより、日本の技術力と国際競争力の向上に繋がります。
このプラットフォームの開発にあたっては、量子計算とHPCを連携させるためのシステムソフトウェアや最適化ソフトウェアを有機的に統合するプラットフォーム技術を確立し、Webブラウザから操作できるPaaSポータルを構築します。ユーザーは、このPaaSポータルを通じて量子計算とHPCの強力な連携を活用し、データ収集から計算実行、結果評価までの複数の処理が自動化された次世代の計算環境にアクセスすることができます。これにより、専門知識を持たない利用者でも、量子コンピュータにアクセスし、実際に利用することが可能になります。
具体的には、クラウド上でのワークフロー構築環境ツールを開発し、GUIを用いて簡単に操作できる仕組みを提供します。これにより、ユーザーはマウス操作でワークフローを構築し、保存されたワークフローを異なるデータセットに対して再実行することができます。また、量子計算を実行するためのハイブリッド連携スケジューラへのジョブ投入機能も開発し、計算に必要なファイル一式を量子コンピュータに送信し、計算終了後に結果ファイル一式を受け取ることができるようにします。
さらに、量子コンピュータ利用者を管理するためのアカウント管理システムを開発し、ログインやシングルサインオン(SSO)認証機能を備えたポータルを提供します。このアカウント管理システムにより、ユーザーの認証とアクセス管理が簡単に行え、ユーザーが安心して利用できる環境を整備します。
また、量子・HPC連携PaaSワークフローを利用したアプリケーションの1つとして、IoTデータなど外部データと連携し、量子・HPC連携ソフトウェアで解析するアプリケーションを検討します。そのための機能として、外部システムからデータを受け取ったタイミングで、事前に設定した処理が自動的に実行される仕組み(イベント駆動機能)を開発します。開発する機能は、PaaSポータル上で動作するように実装します。また、このようなアプリケーションで必要とされる、リアルタイムのスケジューリングについても検討します。
開発の最初の段階では、各機能が正しく動作するかを個別にテストします。その後、全体のシステムとしてうまく動くかを確認するために、すべての機能を統合してテストします。これにより、システム全体が安定して動作することを確保します。具体的には、ワークフロー構築環境ツール、スケジューラ、アカウント管理システム、イベント駆動機能の要件定義と詳細設計を行い、これらの機能について要件定義書と詳細設計書に基づいて個別にテストを行います。
各機能を統合してシステム全体の動作確認を行う段階では、開発した個別機能を統合し、デモアプリケーションを使用してPaaSシステム全体が適切に動作することを確認します。さらに、事業項目⑤「量子・スパコン連携プラットフォームの構築および運用技術の開発」で開発される量子・スパコン連携プラットフォームと結合し、テスト運用を実施します。その後、開発したPaaSシステムをソフトバンクのクラウドにデプロイしてテストとデモを行い、トライアルユーザーに使用してもらいます。ユーザーからのフィードバックを基に評価・改良を行い、理研等の他機関のスパコンを用いた試験やデモアプリケーションを利用した検証も実施します。
量子コンピュータのクラウドサービスは、世界的に見てもまだ発展途上であり、多くの課題があります。本事業で開発される量子・HPC連携PaaSシステムは、世界初の取り組みであり、従来の量子コンピュータのクラウドサービスとは一線を画します。従来のクラウドサービスは、主に簡単な量子ライブラリ(量子化学計算、最適化計算、量子機械学習など)を使ったコード実行環境を提供するものが多いですが、本事業では、GUIを用いた実用的なアプリケーション実行のためのワークフロー構築機能も提供します。このシステムは、理化学研究所計算科学研究センターが運用する「富岳」をはじめとする最高性能スパコンと、最先端の量子コンピュータを連携させ、大規模量子計算の実行を可能にする点で画期的です。これにより、複雑な計算を迅速に処理でき、様々な分野での研究開発を大きく前進させることが期待されます。
また、このプラットフォームは、量子コンピュータとHPCの連携を最適化することで、計算リソースの効率的な利用を実現します。これにより、企業や研究機関は、高価なハードウェアを購入することなく、必要な計算能力をオンデマンドで利用することができます。さらに、このプラットフォームを通じて得られた知見やデータは、量子コンピュータとHPCのさらなる連携技術の開発に役立てることができます。
本事業項目は、クラウドからの量子・HPC連携ソフトウェアの利用によるビジネス展開(事業項目10)を見据えて研究開発を進めます。これにより、革新的な研究開発を促進することが期待される最新の計算技術を活用できる環境を整え、その社会実装や実用化の有効性を検証します。
スケジュールschedule
プロジェクトメンバーproject members
ソフトバンク株式会社
プロジェクトリーダー
- 宮田 聡
- 冨永 祐一
- 志甫 克己
- 大野 翼
- 外村 政和
- 土屋 薫
- 志田 有彩
- 加藤 太朗
- 十和田 潤
- 西村 香純
- 董 喜武