事業項目 Work Packages
JHPC-quantum
04.
量子・HPC連携システムを利用するモジュール型量子計算
ソフトウェアライブラリの研究開発
最先端の量子計算ソフトウェアを、本プラットフォーム利用者が簡単に利用できる環境を実現します
概要overview
本事業項目では、大阪大学と理化学研究所が連携し、本プロジェクトを通じて構築される量子・HPC連携プラットフォームにおいて、大阪大学量子ソフトウェア研究拠点や理化学研究所で開発される最先端の量子計算ソフトウェアの利用を可能にする「モジュール型量子計算ソフトウェアライブラリ」環境を整備します。「量子化学」、「物性・統計物理」、「機械学習」、「最適化」の4つの分野をターゲットにライブラリを開発し、各分野における計算課題にアクセスするためのツールを提供します。これにより、多くのユーザーが多様な量子計算リソースとソフトウェアを容易に活用できる環境を実現します。
事業内容detail
今日の量子計算ソフトウェア開発において、プラットフォームに依存したコードの再利用性の低さ、計算性能を低下させるオーバーヘッド、そして多すぎる依存ライブラリによる開発遅延が課題となっています。これらの課題は、最先端の量子計算ソフトウェアを新しいプラットフォームで容易に実行できない状況を引き起こしています。この問題を解決するために、大阪大学量子ソフトウェア研究拠点(QSRH)では、QURI Partsと呼ばれるプラットフォーム非依存型量子計算ソフトウェア開発環境を活用して、世界最高速水準の状態ベクトル型シミュレータQulacsをバックエンドに、量子化学、物性・統計物理、機械学習、最適化など多岐にわたる分野における様々な量子計算ソフトウェアライブラリをモジュール化しています。これにより、異なる開発環境が提供されている各種量子デバイス及びそれらを模擬する量子回路シミュレータを、単一のプラットフォームから自由に選択して各種量子ライブラリを実行できる「モジュール型量子計算ソフトウェアライブラリ」環境が整えられつつあります。
そこで、この事業項目④では、本プロジェクトを通じて構築される量子・HPC連携プラットフォーム環境において、速やかにQSRHや理化学研究所で開発される最先端の量子計算ソフトウェアの利用を可能にするための「モジュール型量子計算ソフトウェアライブラリ」環境を整えることを目的とします。具体的には、「量子化学」、「物性・統計物理」、「機械学習」、「最適化」の4つの分野をターゲットに、ライブラリ開発を実施します。
量子化学分野の主な目的は、分子構造の解析や化学反応機構の理解、さらには分子の性質(スペクトル解析、光学特性、磁気特性、電気伝導性など)の理論的予測と実験データとの比較からその特性を理解することです。この予測精度の向上は、より高性能な新素材・新薬の設計と開発の効率化に資するため重要です。これを達成するためには、多数の電子の相互作用を取り込んだ量子力学的な時間発展方程式を数値的に解く必要があります。量子力学の原理に従って直接量子状態を制御できる量子計算機は、この方程式の取り扱いに適した環境といえます。QSRHや理化学研究所で開発された量子化学分野における数多くの量子・古典ハイブリッドアルゴリズムの中から当該プラットフォームの性能を効果的に引き出せるアルゴリズムを選定し、利用者が活用できるライブラリ開発を進めます。
図1.量子実機を用いて分子の性質をビット列として抽出する
イメージ図(QSRHウェブページより)
物性・統計物理分野の主な目的は、固体物質の結晶構造解析や相転移現象の理解、また量子化学分野と同様に、物質中の膨大な数の電子が織りなす状態を理解することで、その物理的(電気的・熱的・磁気的・光学的)性質の理論的予測と実験データとの比較による物性物理の理解を深めることです。これらの知見は次世代のエレクトロニクス材料開発に応用されるため重要です。本分野でも量子力学にしたがって互いに相互作用する多電子問題を取り扱いますが、物理の本質に焦点を当てるためのシンプルな理論モデルを取り扱うことが多く、量子化学分野よりも早期に量子優位性の議論が展開される舞台として注目されています。事業項目⑧の量子・HPC連携アプリケーションの有効性の検証で開発される量子・古典ハイブリッドアルゴリズムのライブラリ化を進めることで、最先端技術に利用者がアクセスできる環境を整えます。
図2.量子・古典ハイブリッドアルゴリズムの概念図
機械学習の主な目的は、与えられたデータから学習し、これまで人間が行ってきた様々なタスク(パターン認識と予測、繰り返し作業、意思決定、個別化されたサービスの提供、データ解析と洞察の抽出、創造的生成、etc.)の自動化・効率化を図ることです。機械学習による支援能力の向上は多様な社会的課題の解決につながります。量子機械学習では量子計算機の自由度を活用して、従来手法では学習が難しい複雑なデータ構造を持つ問題を解決することを目指します。QSRHでは、世界に先駆けて量子回路学習を提案したメンバーらが作成した量子機械学習ライブラリ(scikit-qulacs)や世界最大規模の量子回路学習データセットを既に公開しています。本事業項目では、これらの機能の一部を当該プラットフォームで利用できる環境も整えます。
図3.量子回路学習のイメージ図(QSRGウェブページより一部改変)
本事業で開発する最適化のライブラリは、組合せ最適化問題を効率的に解決するためのツールを提供します。組合せ最適化問題は、物流の最適化やスケジューリング、ネットワーク設計など、多くの実世界の問題において重要な役割を果たします。量子計算機の支援を受けることで、これらの複雑な最適化問題に対して従来の計算手法よりも速く最適解を見つけられる可能性があるため注目が集まっています。また、本分野で先行する量子アニーリングやそれを模した手法では導入することができない量子状態のダイナミクスが、どのように最適解へのアプローチに寄与するかという問題の解明に向けてはまだまだ発展途上です。古典のヒューリスティクスと組み合わせたハイブリッドアルゴリズムのライブラリ化を通して、多様な最適化問題に対して当該プラットフォームの計算資源を活用できる環境を提供しつつ、これらの課題にもアプローチすることを目指します。
図4.経路探索問題と経路数の問題規模依存性
以上のライブラリ開発を通じて、幅広い研究者やエンジニアが最新の量子計算技術を活用できる環境を整備し、本プラットフォームを活用した研究開発のスピードと効率を向上させることを目指します。
プロジェクトメンバーproject members
大阪大学
プロジェクトリーダー
- 上田 宏
- 量子情報・量子生命研究センター
- 黄海 仲星
- 基礎工学研究科
- 杉本 貴則
- 量子情報・量子生命研究センター
- 高倉 龍
- 理学研究科
- 髙橋 慧智
- D3センター
- 竹森 那由多
- 量子情報・量子生命研究センター
- 伊達 進
- D3センター
- 束野 仁政
- 量子情報・量子生命研究センター
- 中村 祐一
- D3センター
- 箱嶋 秀昭
- 基礎工学研究科
- 藤井 啓祐
- 基礎工学研究科
- 細見 岳生
- D3センター
- 水上 渉
- 量子情報・量子生命研究センター
- 御手洗 光祐
- 基礎工学研究科
- 宮腰 祥平
- 量子情報・量子生命研究センター
- 森 俊夫
- 量子情報・量子生命研究センター
- 吉田 薪史
- D3センター
- 吉田 悠一郎
- 量子情報・量子生命研究センター